視覚伝達デザイン学科の卒業制作の特質としてまずあげることのできる質は、テーマの多様性に有る。これは教員の専門性を強要せずに、学生の興味に添った指導を基本にしているところから生じているのだが、もう伝統と言えるほどに定着してきている。
テーマを自ら設定することの面白さは、同時に表現に至るプロセスの中での苦しみも伴うが、既に視覚伝達デザイン学科の卒業制作を経験した多くの卒業生が、現在の自身との比較で、この苦しみの自由さをもう一度味わいたいと我々に語ってくれる。この話を聞くたびに、卒業制作に対する学生の思いの込め方に強い共感を覚える一方で、我々教員の起ち位置に対する自問が常に必要とされている。次にあげる特質としては、テーマの掘り下げの深さに有るだろう。
これは最終学年に至るまでの基礎過程と応用過程の授業の全てに共通している、デザインする対象への理解の重要性を繰り返し問いかけてきたことへの良き反応の成果だろう。
今年度も例年にも増してこの2点を踏まえた作品が数多く見られる。とくに興味深い特徴としては、デザイン対象と制作者自身との関係性の作り方に対する工夫の斬新さと、その関係性から独自の表現を呼び込んでいる作品が多くみられることだ。それゆえ作品の完成形が期待される。

  学生諸君にとってこの4年間の学びの集大成を世に問う時は、同時に我々教員にとっても指導力を問われる時でもあります。互いに自信を持って自らのデザインを世に問いましょう。

視覚伝達デザイン学科主任教授 新島実
手を動かすことを、最優先する。
まる一日制作に没頭できる、それは最高に素晴らしい生活ではないか。職業人は、毎日最高のパフォーマンスをめざす。地味とも言えるそうした継続のなかでこそ、ひらめきや発見の贈りものを知る。ひらめきや発見をじかに目指すことは、無理だ、欲が深過ぎる。
十月は実行力の月間テーマ。小理屈はすべてを萎縮させる。じぶんは最高さ!と自己暗示をかけ、ファイト自己集中続けて、つくる継続力を身につけてほしい。ともかく「もの」をたくさん産み出せ。そうすれば仕上げ時期に、選択肢が増えて完璧な準備と成るからだ。ここでいう「もの」は、テキストもイメージもイラストレーションもデザインも、ソフトスカルプチュアもフィギュアもオブジェも、どんなものについてもです。ものが増えて行けば、嬉しいし弾みもつく。卒制展は未来デヴューのフェスティバル。こうありたいという君が好きなスタイルで、良いのさ。これからの新しい時代を生きる感覚の発芽を示してくれ。
・三嶋典東 2o121o12

(三嶋ゼミ最後の授業メールより)

ゼミの皆さんへ
ふつうデザインのテーマは外から与えられる。デザイナーはそれに対して最速、最短でその解を求められる。しかしその解には必ずしもその問題に直面しているデザイナーの、個人的な表現衝動といったことは必要とされていない。むしろそのような個人的な思い込みが無い方が良いとされる。しかしごく稀にその両方に拘りを持つ人達がいる。この人達の生活はふつうの生活からは相当にかけ離れているが、その差は外から見ているとあまり良く分からない。さらにその人達のなかのほんの一握りの人達なのだが、ライフワークと呼ばれる、すぐには役に立たないフィールドを持って活動を行っている人達がいる。多くの場合、このごくごく少数の人達によってデザインが語られ、新しい道が切り開かれてきた。
制作者としての理想は、仕事とライフワークが結びつくことだろうが、その為には自らが進んでライフワークを見つけなければならない。卒業制作の意味を毎年尋ねられるが、私の答えは「ライフワークの発見」の一言につきる。このカタログが納品される頃、皆さんの卒業制作との格闘はいったん終了しているでしょう。しかし本当の制作活動はそこから始まります。そしてゼミ生の皆さん、私は今年も目一杯ゼミを楽しみました。楽しい一年をありがとう。

持続する志

インターネット、携帯電話やSNSの急速な浸透は、私たちの生活を大きく変えて来ました。情報は、めまぐるしく変化し、しかも膨大な量が吐き出されています。にわかに、それらの変化に対応する事が困難な事もあります。卒業生の皆さんの世代は、そうした時代の中で物心がつき今日に至っていますが、今後の展望に関してみると確信を持って将来を見据える事は至難の技です。さて皆さんが、この4年間に学んだ事は、社会に出てすぐには効果が現れないものが多いと思います。学校は原則的な取組み方を教えているに過ぎません。その事を皆さんはわかっているからこそ、卒業後が不安に感じられるようになると思います。こうした中で、「持続する志」を持ってほしいと思います。期待と不安とを持ちながらも私たちは日々を送っていますが、それを払拭できるのは皆さんが見つけようとしている「志」ではないでしょうか。私自身の事を言えば、周りから「後藤はまだあのような古い事をやっている」のかと陰口をたたかれているのは承知していますが、そうした古い事の中にも本質があります。私はこれをアクシスにこれまでやって来たし、今後も変わる事は無いでしょう。どうか、「持続する志」に値するようなテーマや「志」を早く見つけて邁進して下さい。keep in touch!!           

私たちがほしいものはなんだろう。
それを見つけよう。
遠くまで行ってみた。
何度も通ってみた。
振り返って遡ってみた。
手で触れて確かめた。
立ち止まって香りをかいだ。
たくさんの人に助けられていくつもの物語に耳をかたむけた。
出会いの数だけ真実があり小さな声だが
それを集めることができた。
手さぐりのようだがけして暗闇ではない。
歩いてきた足の裏の感触は地についてきた。
地形が見えるところでは空気の動きのすべてを知ることができる。まだだれも見たことがないのだがもうすぐ明日になる。
かたちにすることはつなげることになるのだろうか。
ほしいものの答えは見つかっただろうか。
さあ、次の扉を開けてくれ。
君たちの行動力に乾杯。

みること、みせること。視覚伝達デザインを考える。
卒業制作もいよいよ佳境。こんな時期の悲しい知らせにみんなも動揺している事と思います。典東さんのご冥福をお祈りします。
僕は線をみつめて線と対峙してきた典東さんから教わった事がたくさんありました。
人は、人をみて、人の営みをみて学び、育ちます。みることみせることを生業とする、視覚伝達デザインのクリエイターとして、典東さんにはもっとみせてもらいたかった世界がありました。今年のゼミは僕も含めて、何をみたいのか、どうみているのかを探る1年間でした。
石巻のボランティア体験から領域や国を超える人とのコミュニケーションをみようとしてきた山崎さん。金沢の市民に自分の自然の見方をアニメーションで伝えた落合君。デッサンから始まり、みることとパースペクティブの関係を3DCGを駆使して、大きさの違う生き物や乗り物からの視点にこだわる三沢君。みんな全く違う目線と好奇心で卒業制作に挑んでいます。まずは、興味のあることをしっかりとみる人になって下さい。そして君の世界をもっと見せて下さい。

20121215
陣内利博

卒業制作はテーマとプロセスの全てを、自分で作り出していかねばならない。視覚伝達デザインである以外、基本的に「枠」はない。ある意味で最も自由かつ困難な「課題」といえるだろう。しかしこれは学生時代だけのことではないと思っている。僕を含めて既に卒業した大人たちも、同じように自らに与えた「課題」の中で生きていると言っても良い。卒業制作のプロセスをあえて分けるとすれば、自分にとって最も重要なことを見いだし、それをここでやるべきという確信に至るまでの前半部と、それを最も適切な、かつ当初自分が想像していた以上の形として具現化する後半部に分かれる。しかし実際のところ、人それぞれで、そう単純には行かない。右往左往もするし、迷走もある。ただ「ノイラートの船」のたとえではないが、途中で岸辺に避難するわけにはいかない。あと一ヶ月に迫った展覧会が、この航海のひとまずの港である。積み重ねた努力は決してその人を裏切ることはないだろう。今年のゼミで9ヶ月間、三十人前後のテーマに伴走しながら思ったこと。全てのデザインの課題群への各人の挑戦は僕にはとても興味深く、楽しい時間であった!

今2012年12月、締切ギリギリで皆さんへのメッセージを書いています。昨日三嶋先生の訃報が届きました。夏休み明け、お元気な姿をお見かけしていただけに、あまりの急展開に言葉がありません。これから慌ただしく卒制提出、展示、講評がありますが、皆さんもじっくり三嶋先生のことを偲ぶことが出来るのは全てが終わる2月に入ってからでしょうか。大きな喪失感があります。
昨年の大震災、原発事故の後、沖縄での基地の問題や、竹島・尖閣諸島にみる領土の問題など、様々な歪みが露呈し、今、日本は希望が見出せず、自信を無くし、不安に押しつぶされそうな状況です。ただ、私は若い皆さんにこういう時こそ冷静に世界を見渡し、多いに学んで、積極的に社会に乗り出していって欲しいと思っています。時代は大変革のまっただ中ですが、何を学んで来たのかを振り返り、デザインとは何か、デザインの何がどう変わってきたのか、その中で自身がやるべきことは何なのかを、メディアの変遷を踏まえて考え実践していけば、自ずから道は開けていくのではないでしょうか。これから広がる新しい世界の中で、皆さんの活力と意欲、知的好奇心が活かされることを願っています。がんばってください!

ここからは轍なき道。
どのように歩くのかは君たち次第。
異なる道を歩み、距離や時間が空いたとしても
いつまでも笑顔で会える仲間でいられるように。

白井敬尚

今年度、はじめて武蔵美で卒業制作のゼミを持ちました。誰にも言ってませんが実は初回のゼミはめちゃくちゃ緊張していました。「古堅ゼミ」という看板を持つのは初めてで、3月、4月はどうしようかと実は不安でたまりませんでした。が、いざ、始まってみると、、、気がつけば今です。12人という中所帯なので、「チーム」という意識で毎回、全員集まって全員の前でそれぞれが発表するというスタイルでゼミをやりました。全員でやったので、僕だけじゃなくて、みんながみんなの作品についてコメントして考えました。僕としては、初めてのゼミなので、みんなの作品をどのような方向に持っていくべきか、今、こんなこと言ったから逆に混乱させたんじゃないか、、あぁ、、あれって先週言っとけばよかった。。。ということも実はたくさんあります。が、出来上がったものを見てみると、全員、すばらしいものができていると思います。ちゃんと1年間じっくり考えたことが作品に詰め込まれてにじみ出ています。ちゃんとじっくり考えて、ちゃんと手を動かして作ったものは絶対に説得力があるということが僕もよくわかりました。これからも皆さん自信を持ってがんばってください。

Keeping the dream alive

As you embark on a new journey in the real world, keep having big ideas, taking risks and learning from the many mistakes that you will make. At times when Japan has faltered as a nation by the impact of the lost decades and allowed pessimism to become a prevalent force, allow yourself to imagine the boldest things for yourself and our world.