中野 豪雄
かたちにすることの喜び
この原稿を書いている現在、2002〜2020年の視デの教育成果を、卒業制作を中心に振り返る書籍「ヴィジュアル・コミュニケーション・デザイン・スタディ」の編集が佳境である。171点の作品を15の章でカテゴライズしているのだが、そこでは光や色、ことばや書物といった要素だけでなく、知覚や認知のメカニズム、行為とかたちの関係、視覚言語や可視化、家族や社会といった事象も浮かび上がり、それらは複雑に重なり合っている。書物にするために章の切れ目を設けているが、本来は綺麗に分けられるものではなく、ひとつ一つの作品の中でも様々な要素が混在しているし、章や作品を横断した関係性も透けてみえる。それが視デの学びの多様さと独自性を裏付けているのだと思う。
2021年度の今年。ゼミ生たちの多様なテーマが作品へと結びつくプロセスもまた複雑だ。個人の中での小さな気づきや出会い、失敗や手応えなど、様々な経験の連続と積み重ねが、ある瞬間にかたちとして結晶化する。そのタイミングは人それぞれで予測不能なのだが、かたちが見えたときは何にも変えがたい喜びを学生と共有できる瞬間だった。
様々なリサーチや実験が身を結び、自身が取り組むべき本当のテーマは何かが明らかになること。これまでも、これからも、こうした“かたちにすることの喜び”が連鎖し、“視デの卒業制作”というデザインの可能性が、社会に多くの示唆を与えるのだと思う。