白井 敬尚
形にできないものがここに。
ゼミの立ち上がりはコロナ禍にあった。とはいえ始めのひと月余りは本づくりの基礎講座で、ゼミ室もなんだかわさわさしていて、これは調子がいいぞ、と思ったものだ。そのひと月が過ぎ、卒業制作の段階に入るとゼミ室は急に静かになった。うん、まだ立ち上がりだからな、と言い聞かせてはみたものの、あっという間に夏を迎え、行けるかどうかと気を揉んだゼミ旅行も(現時点では)実施できないまま夏休みは終わった。9月のオンラインゼミも終わり、対面授業が再会しても静けさはそのまま、のように思えた。
やがて……。目に見える対象であっても、なくても、概念や心象風景、自己との対話、思索など、心の奥底深くに沈殿した内省的テーマがひとりひとり形を変えて静かに語られ始めた。それらは形にしにくく、具体性をもって示されるわけではない。けれども語られる内容のどれもにひきこまれてしまう。そしてこの手の話を、よくぞ心を閉ざさずに話してくれるものだと感心した。
仲間の言葉が自分の琴線に触れた瞬間、ゼミ生は驚くほどの反応を示す。この「瞬間」を僕は期待するでもなく待っているわけでもない。突然に、偶然にその「瞬間」はおとずれる。そしてこの「瞬間」こそがゼミであり、その場に立ち会える幸せを享受できるのだ。ありがとう、みんな。そして卒業おめでとう。