古布の有機性―光で際立つ不完全な命―
山﨑 野乃華
本|インスタレーション|写真
寺山ゼミ
8号館204
その圧倒的夥しさと形容しがたい美は、強烈な違和となり私を捉えた。襤褸は東北の山村や漁村で江戸時代から何世代にも渡り布を継ぎ接ぎし、再生しながら使われた布類の総称である。私はその形象に身体を包み続けるという衣服の本質や、破壊と再生を繰り返し平衡する生物感を見出した。襤褸を追う中で古い布がただそこに在る尊さと、その魅力が染めむらやほつれ、穴など無数のゆらぎにあり自然光によって繊細に際立つと気づいた。物自体でなく光を介した現象を通じて古布の特性を伝えると決めた。また写真を用いその命をミクロにも表した。この作品で、自然や手仕事から生まれ大切に使われた布の有機性や澄んだ川底のような深く儚い美しさを伝えたい。これまで服を作る中、大量生産品の無機質さに違和感を抱いてきた。これは大きく強い流れへの柔らかな抵抗である。気づいてほしいのだ。見ようとしなければ見えないものが幾多も在ることに。布は語りかける。ひそやかに朽ちゆく自らに宿る、完全よりもずっと豊かで示唆に富んだ「不完全」の存在を。