頼晃―ショパンを能で謡う―
中川 瑛梨
映像|本
寺山ゼミ
10号館311A
十代のほとんどをイギリスで過ごした私にとって、能楽の様式美は衝撃的なほど繊細で、日本文化特有の複雑で微妙な感情や情景を巧みに表現している芸術だと感じます。特に謡本の表記の巧妙さと謡い方の工夫に感動し、能の謡の中の細かな感情の動きが、私がショパンの曲を演奏する時の感情の動きと似ていると感じました。そして、能の曲それぞれに物語があるように、ショパンの「バラード第1番 ト短調 作品23」にもショパンがこれを書くインスピレーションになったといわれる詩があることを知りました。「コンラッド・ヴァレンロッド」は祖国リトアニアのためにドイツの騎士団の総帥まで上り詰め、最終的にドイツ騎士団を破滅させリトアニア独立を実現した裏切りの英雄です。この詩を読んで改めてショパンのバラード1番を演奏し、私が感じた感情や情景を能の修羅物「頼晃」として書き直し、謡ってみました。これらのプロセスを通じて、私の西洋的なバックグラウンドの視点からの能楽の解釈と私なりの能楽の見方の探求を試みた作品です。(図版: Alfred Cortot,Chopin: Ballads,Student's Edition,Salabert,1929年 『ショパン バラードとアンプロムプチュ』株式会社音楽譜出版社 『大成版 観世流初心謡本 上』檜書店、2019年 アダムミツキェーヴィチ『コンラット・ヴァレンロット』久山宏一訳、未知谷、2018年)