「大学で何をやっているの?」学生時代から、何度もそう聞かれてきた。最初は素直に自分のやっていることを説明していたが、全く理解されなかった。私はそのうち「ポスターを使ったり本を作ったりするんだよ」と、理解されそうな分野のことを言うようになった。質問はいずれ「何を研究しているの?」に変わったが、全く同じことだった。最近本を出す機会に恵まれた。書き始めた当初は「わかってくれる人は世界に5人ぐらいだろう」と考えていたが、授業で学生さんと触れ合う中で、私の心持ちは少しずつ変わっていった。私の書くべき相手はこの人たちではないだろうか。少なくともこの人たちには伝わってほしい。そう思うようになった。本が出ると、何かが変わり、人が興味を持ってくれるようになった。「形になる」ということは、自分が思っているより大事なことなのだろう。それに、わかってほしい人ができたことが何より大きかったのだと思う。
皆さんも、これから自分のことを説明するのに困難を感じるかもしれない。自分が面白いと思っていることを、社会的にわかりやすいことに例えて誤魔化しているうちに、いつしかそれに同化してしまうかもしれない。生きていく上では、役に立つとか、お金になるという基準も必要でしょう。でも、自分の面白いと思うことだけは大切にして、それに齧り付いて離さないように。それを面白いと思ってくれる人は、必ずいます。
大田 暁雄
OTA AKIO
デザインとプログラミング、
ヴィジュアル・レプリゼンテーション