ちいさな森がありました。植物の先生が教えてくれたのです。そうでなければ見落としていました。それは三階建ての小学校の校舎の北側にある日陰で目立たない場所でした。屋上よりも背の高いヒマラヤ杉が一本、樹冠を広げてぐーんと立っているところ、その幹の足元にありました。棕櫚、青木、南天などが鬱蒼と生い茂り藪のようになっています。実生です。「鳥がこの森をつくったのです」と先生は教えてくれました。このヒマラヤ杉のように背の高い樹はここら辺では珍しく、鳥たちはこの樹を目印にして飛んできては羽を休めてさえずり、ついでに少々糞を落とします。あちこちで食べたおいしい実の種も糞といっしょにヒマラヤ杉の足元に落ち、種は芽吹き、育ち、茂り、ちいさな森になったのだと。確かにそこは森でした。無数のちいさな生き物たちが棲み家にしています。別の生き物には格好の餌場になっています。昭和初期このあたり一帯に郊外邸宅が建ち始めた頃、ヒマラヤ杉は新しい暮らしのスタイルのシンボルツリーでした。地域の拠点の小学校にもシンボルツリーとして植えられたのでしょう。人間が植えたこの一本のヒマラヤ杉でさえもが、森という生態系の多様性のきっかけになるのだとは。都会の真っただ中にあるこのちいさな森は、これからも地球に備わる知恵を私たちに開示し続けてくれるでしょうか。今日も、鳥たちが残したこの森を、子どもたちが見守っていますように。
齋藤 啓子
SAITO KEIKO
コミュニティデザイン、ワークショップデザイン
武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科
@2023 Musashino Art University Department of Visual Communication Design