Book design, Writing10号館309教室

私小説と私

田原 佑香 大田ゼミ

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私小説と私

田原 佑香 大田ゼミ

“私”とは非常に曖昧な概念である。誰もが“私”とは何か?という問いに容易に答えることはできない。自身を取り囲む様々な環境の中で相対的に定義される“私”は、はっきりとした形のない概念なのである。 その"私"を記述しようとする試みが、“私小説”であった。1910年頃から勃興したこの小説の形態は、いかに曖昧な“私”を記述し、生きている環境の中に確固たる個として“私”を存在させるか、という試みであった。明治から大正にかけて大きく変遷する社会の中で、当時の文学者たちは近代的自我をどう確立させるかという点に葛藤し、苦しみながらも日本の近代文学の一端を担う、“私小説”の形態を成立させていったのである。 そしてその、“私”を記述せんとする文豪たちには、外部を深く観察する視点と、自己を見つめる強い眼差しの両方があった。この作品は、その文豪たちの眼差しをリサーチを通じて自身のものとして取り込み、その上で“私”について記述することで、私小説的なものの見方を現代に実践しようとする試みである。100年前の私小説を読むことと、現代を生きる私を実際に記述すること。その取り組みの中で感応する私小説と私を、作品から感じてもらいたい。

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