若者ことばは言語の乱れの代表例であるという声が聞こえるようになって久しい。文化庁『国語に関する世論調査』(2019)によると、「国語が乱れていると思うか」と言う設問に対し「乱れていると思う」と回答した人の割合は66.1%と高く、さらに「国語がどのような点で乱れていると思うか」という問いに対しては61.3%が「若者ことば」を選択している。こうした世論調査が示しているように若者ことばは言語の乱れた姿であると否定的に捉えられているが、そういった否定的な姿勢を問題視する先行研究は多い。
このように若者ことばを肯定的に扱う先行研究があるものの、若者ことばを主題とした先行研究の数は少なく研究の蓄積はまだ十分とは言えない。そして日本における若者ことばの先行研究の多くは米川明彦『若者ことば考』 (1996)における若者ことばの定義を引用している例が多く、若者ことば研究の意義が提唱され始めた1990年代から20年以上定義に手が加えられていないという現状がある。
そこで、本稿では、先行研究と違った新たな観点から若者ことばの意味伝達様式を分析することで若者ことば研究の意義を明らかにし、また今日的な再定義を行うことでメディアの変化とともに急激に変化し続けている若者ことばを捉え直すことを目的とする。
まず、米川明彦(1996)の定義を参照しつつ、メディアの発達に伴い急速に変化しつつあるコミュニケーション様式の現状を加味した今日的な若者ことばの再定義を試みる。
次に、米川明彦(1996)の定義において若者ことばの特徴として挙げられている「ノリ」の具体的機能を明らかにすることにより、若者ことばにおける意味伝達の様式がどのように成立しているのかを明確にし、表現の多様性を楽しむ姿勢と言葉の根源的な機能を活用する姿勢の両面を持つことを明らかにする。そうすることで、若者ことばが言語の乱れた姿であり社会問題の一つであるという意見が誤った見方であることを指摘する。
(主査:寺山祐策/副査:石塚英樹)