私が卒業制作でテーマにしたのは物語のリアリティについてです。人は作品の、物語のどこにリアルを感じるのか。それは自分の生きる現実の世界と、作品の中の虚構の世界がリンクしたタイミングだと考えました。作品の中で何かが自らの過去の記憶とリンクすると「共感」を覚えます。それが普遍的な感情ではなく私的な状況・思い出・感情と接続すればするほどリアリティが強まります。私はその、作品が現実を侵犯してくる瞬間のことが好きです。現実と虚構の境目が溶かされる瞬間のことが好きです。それは愛おしく温かい気持ちを与えてくれたり、時には心に深く刺さって痛い時もあります。しかしそれらはいずれも非常に切実で、唯一無二な感情の追体験だと思うのです。
中でも私は、他愛のない日常を描いた地味でささやかな物語が昔から好きでした。たとえば放課後の教室で、部活終わりの帰り道で、テスト前に夜のマックで何時間も喋った学生時代。そこには青春と聞いてイメージするような甘酸っぱい恋愛や、熱い努力と友情の結晶などはないかもしれません。しかしそんな他人から見たら何も起きていないただの日常でも、当時はそれが自分のすべてであったこと。今になって振り返ると確かに人生の1ページに刻まれていること。必ずそこには物語があり、自分にとっての青春があること。そういった、事象とそこに生まれる感情の大きさのギャップに、どうしようもなく心を惹かれるのです。
本作では、上で例に挙げたような「地味だけど実は掛け替えのない人生の一瞬間」にフォーカスを絞り込み、人間の感情の機微や関係性の移ろいを描き、物語にリアリティを与えることを目指しています。舞台はとある男子校。どの部活にも入りたくない行き場のない日陰者たちが集まる「総合文化部」という部活のお話です。部員である7人の男子生徒が放課後グダグダ喋ったり議論したりして過ごす、思い返せばあの頃が一番楽しかった系の青春。何も起きない彼らの日々の記録です。