ある人が見れば、車は、無機質なただの走る機械なのかもしれない。
しかし私は、それを有機的で、感情を持つ特別なものだと捉えている。乗る人によってその車の人生は大きく左右される。冒険をする人生かもしれないし、自分の住む街しか走れない人生かもしれない。ただ、それぞれの車にはその道中で起きる出来事、「エピソード」がぎっしり詰まっている。人と車の間に起きるエピソードである。例えば迎えに駅まで来てくれたとき。見慣れた車が走ってくると、「家に帰れるんだ」という安心感に人は満たされる。また、車の中で交わされる何気ない会話が、のちに振り返ってみると、とても面白いものであったりするかもしれない。見慣れた道を走っていても、ちゃんと見てみると、いつもとは違う素敵な景色が見えたりするかもしれないし、同乗者の意外な一面に気付けることもある。何気ない日常の一幕だったとしても、「車」にフォーカスしてみると、さまざまなエピソードが生まれていることに気づかされる。そのエピソードたちが車と人との関係を構築し、歴史となって年月を刻んでゆく。私にとっては車は、いわば年表のようなものである。