九相図とはうち捨てられた死体が朽ちていく経過描いた仏教絵画のことだ。
肉体を不浄なものと捉え、腐りゆく様を見つめることで自身や他人に対する執着を断ち切ることが目的だ。万物は移り変わり永続せず少しもとどまらないという無常の考えも説くとされる。
人の執着に対してあえて朽ちる様を見つめ終わりを想うあり方に強く興味を持ち、そのフォーマットを抽出し、現代に再現してみたいと考えた。
なぜ朽ちる様を描くモチーフを家としたのか。それは、金銭的な価値を持ち、名誉や立場の誇示に用いられ、家庭を築く場であり人の一生において大きな執着対象となると考えたためだ。そして最も身近に喪失感を実感できるものであったことが挙げられる。
自身の生家はそう遠くないうちになくなることが決まっている。はっきりと失うことへの抵抗と喪失感を覚えたのが印象深い経験であった。自身の人格を形成した時間と思い出がある生家、これは自分が最も真に感じられる執着に違いないと考えた。
この制作を経て自身の執着対象もはかなく無常であると自分自身にもまた説きたいと考えたのである。