人文主義者トマス・モアの著作「ユートピア」は、私有財産を持たない共産主義的な理想社会を描いた物語だ。そこでは人間全員が労働に励み、奴隷と居住し、海に囲まれた島で幸せに生きている。そして「ユートピア」という単語は「どこにもない」という意味を持ったモアの造語である。
モアがユートピアを書く以前にも以降にもユートピアという概念は、様々な媒体で世界各国に存在する。このユートピアというジャンルが面白いのは、どれも現実の裏返しであるところ、実践すれば尽く失敗するところだ。今、私たちが先人たちのそれらを見て面白いと感じたり、とんでもないと感じられることは幸福だと感じる。一方、日本で生きる私たちの世界も平和とは言い難く、未来に恐怖したり、現在に辟易していたりする。私はいつからか現実を見ながら、どこにもないどこかを夢に見ていた。この作品はその断片である。