in action

蜉蝣シリーズ

親子関係と記憶想起のきっかけ作りについて

チョウ ウチン

ブックデザイン、イラストレーション
8号館205号室

 この3冊は、読者に心の片隅に忘れていた自分の子供の頃の思い出をもう一度思い出させるために作った本である。  私が最初に気になったのは、同じ時間を過ごしていたのに、その出来事を覚えている人とそうでない人がいて、しかも覚えていない人の方が多いということだった。脳というものは不思議で、その容量が無限にあるといわれている。それでも、人は忘れる。自分が忘れたと、思い込んでしまう。なぜこういった表現をとるのか、それは、本当に忘れているわけではなく、脳がそれを頭の奥の奥に仕舞い込んでしまったからである。使わないから当たり前のように片付けられる記憶は、いろんなトラブルの小さな火種になっていることを、多くの人はまだ気付かないでいる。私の今回の研究対象である「親子関係問題」も、このことと深く関わっている。多くの大人は自分の子供の頃の出来事をほぼ覚えていない為、子供の立場になって考えることができなく、自分の子への対処に困る。間違った対処法を取った場合はひどい結果、例えば、毒親、に成りかねない。しかし、思い出させることにリスクを伴う場合もある。ここで、感情麻痺という病的症状が挙げられる。人の脳には自身の精神崩壊を阻止する為の仕組みが備わっている。子供の頃に遭遇した事が精神の崩壊にも及ばす酷いもの、つまりトラウマであれば、そのトラウマを触れられた時に脳が自動的に「思い出すな」と自分に暗示をかけはじめる。結果的に、問題解決から逃げ続け、次の世代まで問題を残していくことになる。その次の世代も根本的な原因に気付かなければ、ずるずると悪循環になる。いい思い出もそうでないものも、暴力療法、つまり直接思い出させるのではなく、その記憶に繋いでいける状況を作るべくして、この3冊の本が生まれたのである。

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