この作品は、浮世絵を3つの視点から分解することで浮世絵に含まれる当時のデザインについて知ることを目的としたものである。
浮世絵とは江戸時代、江戸を中心に発展した庶民的な絵画だ。木版印刷により安価に大量の印刷が可能となった浮世絵には風景画や大首絵、遊び絵など様々なジャンルが存在しており、そのユーモアたっぷりで迫力溢れる画面は当時から現代に渡り観る者を楽しませてくれる。
しかし、浮世絵にはただ鑑賞するだけでは気づくことのできない隠された魅力が存在している。それは浮世絵画家が施す隙のないデザインだ。一見するとただ不可思議な浮世絵も実は多くのデザインによるギミックが詰まっており、そのギミックに鑑賞者が気づくことで全く違った意味の絵画へと変化する。つまり、一枚の浮世絵に隠されたデザインを様々な観点から紐解いていくことで初めて作者が思案した本当の浮世絵が見えてくる。
そこで私は浮世絵を現代にも通じる優れたグラフィックデザインであるという観点とその魅力を伝えるために、浮世絵の画面全体から分析していく「イコノロジー的な見方」、浮世絵に登場するモチーフから当時の価値観をみる「モチーフ的な見方」、当時の情勢から浮世絵の特徴を見る「年表的な見方」の三視点から浮世絵を分解していく本作品を制作した。この作品は冊子とアプリケーションの2つの媒体で構成されている。冊子からはページをめくっていくことで段階的に浮世絵の緻密に計画されたデザインとその考察を、アプリケーションからはデジタルの特性を生かし視覚的に多数の浮世絵の構造を体感することができるようになっている。
作品を通して、浮世絵は画家が多方の視点から緻密に計画し尽くした隙のないグラフィックデザインであるということを感じ取っていただけたら嬉しい。