JOURNEY

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今年のゼミもそのテーマは一人ひとりが独自性のある多彩なもので、表現手法や媒体もさまざまであった。ゼミの時間を通して会話を重ね、試行錯誤の中から各人のテーマが決定されるに至った動機や、更にその背後にある当人にとっての必然性に触れ得たことは、私にとっても感慨深く重要なことであった。
そして時間をかけて自らが決めたテーマに真摯に向き合う学生と時間を共有できたことは楽しくもあり学生諸君には感謝している。また将来、この経験がその人の未来に何か大事なものを残したと言えるものであってほしいと願っている。
毎年のように、ゼミのスタート時にこの一年がいかに早く過ぎ去るかについて語っているのだが今年はそれが特に強く実感される年であった。私個人としてはここ5年ほど行ってきたプロジェクト「日本近世における文字印刷文化の総合的研究」の最終年にあたり、そのまとめの展覧会を行なったせいでもある。また「博物図譜とデジタルアーカイブ」に関する書物も10年以上の時間を経て本年度に刊行されたということもあった。それらは私にとって少し大掛かりな卒業制作のようなものだ。更に今年は長年主任教授として学生のみならず私たちをも導いて下さった新島実先生の退任展もあり、本学科のこれまでの20年を振り返る大きな機会も与えられた。
このような慌ただしい時の中でふと20代の頃に読んだノーバート・ウイナーの「サイバネティクス」を思い出した。それは海を走る船の操舵を例にしながら、現在の私を作っているのは過去の行為であり、未来を作っているのは現在であると語っていた。これは実感としてよく理解できる。多分今の私は学生の時の私がその方向性を決めたのだと思う。その時はそんなに重要だという自覚もないまま、ただ「私たちがものを見ているとはどういうことか」を自らに問うたに過ぎなかったのだが。私にとっての「道しるべ」とは、多分意識の背後にあるそのような直観であったように思う。