本年もここに学部卒業生117名、大学院修了生12名、129名による卒業・修了制作展を開催することができました。本展は学生のみならず本学科全教員にとりましても、その教育・研究成果の集大成であり、多くの方々にご高覧、ご批評いただくことは大きな喜びです。本年卒業する学生諸君もこの3年間、パンデミックの影響で不自由な学習環境を強いられてきました。しかしそのような状況下、彼らは切磋琢磨し、また互いに励まし合う姿を私たちに見せてくれました。そして本展を目指し制作・研究に真摯に打ち込む姿は素晴らしいものでした。
 本学科が入学する学生たちに提示した学位基準(ディプロマポリシー=教育成果の最終到達目標)は、デザインの諸スキルの習得はもとより以下のことでした。
 まず学生が社会の諸相を見つめる今日的な感性と知性の成長を前提とし、コミュニケーションとデザインにおいて自らがやるべき目的を見出す能力、さらにその目的達成に必要な技術や知識を自覚し、その習得のための適切な行動や判断が行える造形的な知の獲得。
 またその過程の中で自らのミスや問題に気づき、自己修正を行える能力。そして最終的な表現や作品に対して、先生などの他者に依存することなく客観的な自己評価ができ、そこから新たな目標を見出すことのできる能力・人材なのです。
 これは教育目標としては大変高いハードルであり、全ての学生が理想通りに行くとは限りません。しかし今日まで研究室の全教員はそのことを目的として学生と接し、また学生たちもそれに応える努力を重ねてくれました。
 その成果の発露がこの卒業制作展であり、そのような意味で本展は最終的な到達点、一つの結晶であると同時に、彼らにとって自らの更なる未来に向けての新たな目標を発見するための大いなる機会でもあります。
 そのような意味から、ご高覧いただいた皆様方からの叱咤激励は学生にとってとても貴重です。どうか学生たちの果敢な試みに対して忌憚のないご意見をいただけますようお願い申し上げます。
視覚伝達デザイン学科研究室 主任教授
寺山祐策
FLOOR MAP
PROFESSORS
寺山祐策
Julia Chiu
齋藤啓子
白井敬尚
陣内利博
中野豪雄
古堅真彦
石塚英樹
北崎允子
後藤映則
大田暁雄
寺山祐策
Julia Chiu
齋藤啓子
白井敬尚
陣内利博
中野豪雄
古堅真彦
石塚英樹
北崎允子
後藤映則
大田暁雄
ACCESS
武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス
〒187-8505 東京都小平市小川町 1-736
・西武国分寺線「鷹の台」駅下車徒歩20分
・JR中央線「国分寺」駅下車
「国分寺駅北口」4番停留所より
「武蔵野美術大学」行 または「小平営業所」行に乗車
(バス所要時間:約25分)
・JR中央線「立川」駅北口下車
「立川駅北口」5番停留所より
「武蔵野美術大学」行に乗車
(バス所要時間:約25分)
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※各学生の作品情報を掲載します。更新までお待ちください。
ご予約(本展示をご覧いただくには、予約が必須です。)
ご予約
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感染症対策に関する諸注意
本展示は、武蔵野美術大学の感染予防対策に則り
作品鑑賞における以下のルールを設けております。
ご理解とご協力をお願い致します。
手の消毒
マスクの着用
距離を保つ
会話は最小限に
そのほか、各展示物に関しての諸注意は会場の指示に従っていただけますよう、ご協力お願い致します。
武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科
@2023 Musashino Art University Department of Visual Communication Design
武蔵野美術大学
視覚伝達デザイン学科
卒業・修了制作展2023
武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス
今年も楽しいゼミの時間を過ごさせてもらった。学生諸君には心からの感謝を。さて、その楽しさとは何か。学生たちは毎年多様なテーマを展開する。そこに各人の個性というプリズムを通すことで無限とも言える驚くべき可能性が現れる。ゼミの時間はひとつの旅のようだ。対話を重ね、一緒に未知の事象に出会うことには楽しい旅的な感覚がある。またその時を通して表面ではなく、その人の過去をも包含した「ひととなり」が姿を現す瞬間を見ることがある。単語から文章へ。その人の文脈が見え出す。例えば船旅は港に着くまで旅を終えることができず大変だ。しかし安易に引き返せないことはその人を鍛える。旅をやり通すには勇気が必要だ。旅の中盤、その人が自分の本当のテーマを発見した時の嬉しさ。そしてテーマに対して徐々に真剣に、またあるときは深刻になっていく他ない時が来る。苦しいのだが本気と真剣で対象に向かうことは本質的なことで、倫理的な喜びがそこにはある。そして旅の後半にその人にとって何らかのブレークスルーの瞬間が来る。その人のいわば覚醒の瞬間に遭遇することはとても素敵なこと。それはいつも旅の後半の追い詰められたギリギリの時に起こる。
最後はいつの間にか一人一人がその人の色で輝いて見えるようになる。1年前には見えなかった光。多分私がゼミを楽しいと思っている理由はその光ゆえのものだ。
寺山 祐策
TERAYAMA YUSAKU
ヴィジュアルコミュニケーションデザイン、
視覚記号論
I love the beautiful image of the forest from this year’s graduating class. Celebrating the diversity of individual characteristics, it evokes our desire for designing in harmony with humanity and the environment.
The design speaks to our hearts that there is hope for the future. A future where Gen Z has the resilience and wisdom to rise above the traumatic memories of COVID to rebuild our world together.
During the pandemic, companies have been forced to adapt to new values and business models to survive. From digital twins to the Metaverse, a highly immersive, sensory virtual world where we will interact, work and play. Our world is heading towards a digitalized future. It has also highlighted the importance of our connections to nature, the need for genuine human interactions and to course-correct our over-dependence on technology. Being the first “digital natives” entering the work force post-pandemic, your generation has the technological foundations and tools to become facilitators of what AI generates.
Go out into the world. Listen to people to know where technology is appropriate. Go and prove that with design, technology and digitalization can be a force for good to create more caring societies in the future.
The world is looking to you to play a leading role to make changes where it is most needed.
JULIA CHIU
キュー ジュリヤ
Global Design Strategy,
Future Trends, Creative Cities
ちいさな森がありました。植物の先生が教えてくれたのです。そうでなければ見落としていました。それは三階建ての小学校の校舎の北側にある日陰で目立たない場所でした。屋上よりも背の高いヒマラヤ杉が一本、樹冠を広げてぐーんと立っているところ、その幹の足元にありました。棕櫚、青木、南天などが鬱蒼と生い茂り藪のようになっています。実生です。「鳥がこの森をつくったのです」と先生は教えてくれました。このヒマラヤ杉のように背の高い樹はここら辺では珍しく、鳥たちはこの樹を目印にして飛んできては羽を休めてさえずり、ついでに少々糞を落とします。あちこちで食べたおいしい実の種も糞といっしょにヒマラヤ杉の足元に落ち、種は芽吹き、育ち、茂り、ちいさな森になったのだと。確かにそこは森でした。無数のちいさな生き物たちが棲み家にしています。別の生き物には格好の餌場になっています。昭和初期このあたり一帯に郊外邸宅が建ち始めた頃、ヒマラヤ杉は新しい暮らしのスタイルのシンボルツリーでした。地域の拠点の小学校にもシンボルツリーとして植えられたのでしょう。人間が植えたこの一本のヒマラヤ杉でさえもが、森という生態系の多様性のきっかけになるのだとは。都会の真っただ中にあるこのちいさな森は、これからも地球に備わる知恵を私たちに開示し続けてくれるでしょうか。今日も、鳥たちが残したこの森を、子どもたちが見守っていますように。
齋藤 啓子
SAITO KEIKO
コミュニティデザイン、
ワークショップデザイン
ゼミの開講日は木曜午前午後と金曜午後。両日ともに始業時間に人数が揃うことはまれで、大抵の場合1人2人が申し訳なさそうにドアを開けるところから始まる。けれども心配することはない。終わり頃になるにつれ、それなりに混み始めるからだ。したがって必然的に授業は延長となるが、終わり頃のグズグズした時間が思いのほか充実してたりもする。ゼミ生の内訳は学部生12人、院生5人、計17名で、そのうち5名が中国からの留学生。ゼミ室は、例年通り院生と学部生を分け隔てることなく、共に学ぶ場とした。面談はもとよりゼミ内発表、見学会(市谷の杜本と活字館)、ゼミ旅行(金沢)も基本的に一緒。だからといって、学部生と院生が和気あいあいとしているか、というとそういうわけでもない。発表会、院生は学部生の自由奔放なテーマ設定に戸惑いつつも、先輩らしく受け止め、時には辛辣な意見・質問を投げかけるなんとも頼もしい存在なのだ。と同時に学部生は院生の研究の分厚さに敬意を表し、身を引き締める。学部生、院生、そしてその中の留学生と日本人学生が場を共にし、デザインを語り合える豊かさと贅沢さがここにはある。そして――。
こんなにも多様なテーマがよくも集まってくるものだという卒制と修論。このテーマ群を捌き切れるのか、という当初の不安。けれども、どこかで何かが繋がり、何かを感じて集ってきてくれている......。その1年がまもなく終わろうとしている。
白井 敬尚
SHIRAI YOSHIHISA
グラフィックデザイン、エディトリアルデザイン、
ブックデザイン、タイポグラフィ
本年度で君たちと共にムサビを卒業します。1997年から専任を継続してきました。
ひょっとしてまだ君たちは生まれていなかったかのカモ。ムサビに入学したのは1976年、院を修了したのが1982年、芸術学修士です。
「みる」ことと「みせる」ことの専門家としてさまざまな方々と出逢い仕事をしてきました。変わり続けるメディアを研究し、いきものがより良い生活が持続できる工夫(デザイン)を続けてきました。はじめは通信と放送が合体したニューメディア。1992年のセビリア万国博覧会で日本政府館の企画。日本アニメーション学会の立ち上げ。渋谷駅前の大型映像機の企画・運営。大学に戻ってから「ふくしま再生の会」に深く関わっています。
視覚伝達デザインを学んだ専門家はこれからの世界に必須の人材です。
さあこれからの地球をみんなでつくっていきましょう。ボンボヤージュ!!
陣内 利博
JINNOUCHI TOSHIHIRO
視覚伝達デザイン、みることみせること
ゼミを受け持つようになって常に試されていると感じることがある。それは学生たちの力を最後まで信じるということ。全ての学年・授業において学生たちが見せてくれる成果には毎回驚かされ、その度に学生たちの力を信じて間違いなかったと思わせてくれるが、4年次という最終学年においてはさらに「自主性」が重要視される。より具体的に言えば、自ら問題を発見し、解決の方法を見つけ出し、造形へと展開し、それを自ら評価する力である。言い換えれば教員である私自身が学生たちの思考過程を注意深く観察し、その自主性を信じ切ることができるかどうかが常に試されているとも言えるだろう。ゼミが始まり、ぼんやりとしたテーマを具体化するために様々な模索を続けていく姿は、行き先を探しながら森を彷徨うかのようである。一歩進むたびに全身に飛び込んでくる膨大な情報に振り回され、自分が進むべき道はここだと確信しても中々先が見えないこともある。しかしそうした紆余曲折を経ていく経験そのものが、のちの大きな跳躍につながり、表現の原動力として自分自身の予想超えたものへと展開していく。今年度も「みんなを信じよう」、そう心に決めて1年間伴走してきたが、学生たちの試行錯誤の道のりは間違いなく創造性に溢れたものだった。それは自らを信じる力を育む過程であり、その成果として現れた卒業制作は学生たちにとっての未来の道標となるに違いない。
中野 豪雄
NAKANO TAKEO
グラフィックデザイン、
ヴィジュアライゼーション
コロナが一段落ついて、今年はほぼ以前のゼミ環境に戻りました。この2年間ほどの特殊事情から、以前の普段の制作環境に戻りつつあります。そんなことを考えていたら、ふと「作品」とは一体何なのか?今更になって、みなさんを指導している立場なのに、こんな疑問が湧いてきました。偶発的におもしろいことを思いついてそれを形にするだけでももちろん作品になり得ます。でもここは大学という場で、ゼミは1年間の授業です。偶然の思いつきを形にしただけのものを作品と呼んでいいのか?でもできたものはとてもおもしろいものなのだけど、とか。みなさんは自分で掲げたテーマについてリサーチをしていろいろなことがわかる。だけど、ただそれをまとめただけのものは作品と呼べるのだろうか?とか。そこになにかオリジナリティがいるのではないか?では、オリジナリティとはなんなのか?とか。先生という立場が故の堅苦しいことを考えてみなさんと共有します。そしてみなさんも悩みます。でも、そんな疑問を持ち続けて悩みながらできた作品は強いということもわかってきました。スコーンとかっ飛ばした珠玉のアイデアや技術が練り込まれた作品はもちろん強いです。でも、悩みに悩んで作られた作品も強いです。その強さやおもしろさは後年になってじわじわとわかるでしょう。僕自身がそうですが、卒業制作とそこで考えて悩んだ内容は一生の思い出で、これからの人生の糧と指標になります。
古堅 真彦
FURUKATA MASAHIKO
アルゴリズミックデザイン
現在の社会情勢がそう思わせるのかもしれませんが、今年度は手でものを作ることの重要性を強く感じる一年でした。このことは卒業制作に対するゼミ生の姿勢を見ていても感じたことなので、皆さんはすでに体現できているのかもしれません。
私は「手でものを作る」と言う言葉は、手を使うという作業形式だけではなく、対象や素材に対して創造的に接している時の感覚も表していると考えています。なので、皆さんが卒業制作を通して行ってきた作るという行為は、作品を完成させるためのプロセスであるのはもちろん、自身と対象の中に潜む創造性を見つけた成果だと思っています。卒業してからの生活や仕事の中では、卒業制作でやっていたことを直接やり続ける機会はあまりないかもしれません。しかし、対象と自身の行為の中から創造性を見つけた経験、言い換えれば自分でものを作る感覚を見つけた経験は、一見デザインではないものの中から自分のデザインを見つける力になると信じています。そして、その様にして見つけたデザインは、たとえ形が異なっていても卒業制作の続きであり、ものを作ることの積み重ねになっていくのだと思っています。
最後に、皆さんの卒業制作と卒業制作展が、これからの創造の積み重ねの一歩になることと、それぞれのもの作りを確かめる場になることを願っています。
石塚 英樹
ISHIZUKA HIDEKI
色彩とコンピュータ
今年も学生たちの仕事は素晴らしく意義あるもので、新たな知や人との出会い、高い視座から見た構造や関係の発見がありました。
さて、4年生の目標は「個から社会へ」です。それは、個の感覚によって知覚され生まれた意図を、他者に伝え影響を作り出すこと。つまり、自分の考えをかたちを通して世界に表 明することであり、かたちがある分デザイナーは、自然、都市、環境、文明、文化のあり方を直接的に操作することになります。私は、この役割を担う人がどうあるべきなのか、ずっと考え続けています。これまの経験で手に入れた、私のとりあえずの答えを紹介します。
まずFreedom( 自由 )。デザインプロセスにおいて判断をする際、正しい決断を狂わす外部の力学から自由でいること。次にResponsibility( 責任 )。デザインにおける各判断によって引き起こされるすべての結果を、完全に受け入れる覚悟をすること。それからAuthenticity( 本物でいること )。世界で唯一の自分を正直に表現し、独自の方法でこの世界に貢献すること。あなたが「自由」であるとき、あなたは「本物」として振る舞うことができ、そして「責任」を果たすことができます。でもそれらは、「従順さ」「無関心」「ふりをすること」によって簡単に妨げられてしまいます。
皆さんのこの先のデザイナー人生が、充実したものとなりますように!
北崎 允子
KITAZAKI MASAKO
インタラクション・デザイン
みなさんがムサビに入学した年に僕も教員として着任しました。1年生の頃から知っている初めての学年になります。この4年間でみなさんはずいぶん逞しくなったと感じています。そんなみなさんの卒業に立ち会えることは幸せなことでもあり、少し寂しくもあります。
今年から初めてゼミを受け持ったのですが、初回の顔合わせではみなさん緊張していましたね。そんな初々しい雰囲気の中、数人で美術館を訪れたとき、コーヒーでも奢るからとカフェにいきました。遠慮しなくていいよと言ったら、本当に全然遠慮なかったですよね。そこから毎週の話し合いでは少しずつ卒制の内容も深まっていき、僕自身も刺激をもらいながら、みなさんから多くを学ばせてもらいました。初のゼミ旅行も良い思い出です。この文章を書いている時点では、まだ制作の途中ではありますが、最後まで駆け抜けてほしいと心から願っています。
最後になりますが、卒業後はぜひ旅をしてみてください。まだ新型コロナの影響もありますが、海外もようやく自由に行き来できるようになりました。身の安全には配慮しながら、なるべく遠くへがオススメです。自分の尺度では到底計り知れない、とんでもないものに溢れています。いろいろな体験をして、未知との出会いを楽しんでいってください。
それでは、またどこかで会いましょう。
後藤 映則
GOTO AKINORI
アートワーク、映像表現、メディアアート
「大学で何をやっているの?」学生時代から、何度もそう聞かれてきた。最初は素直に自分のやっていることを説明していたが、全く理解されなかった。私はそのうち「ポスターを使ったり本を作ったりするんだよ」と、理解されそうな分野のことを言うようになった。質問はいずれ「何を研究しているの?」に変わったが、全く同じことだった。最近本を出す機会に恵まれた。書き始めた当初は「わかってくれる人は世界に5人ぐらいだろう」と考えていたが、授業で学生さんと触れ合う中で、私の心持ちは少しずつ変わっていった。私の書くべき相手はこの人たちではないだろうか。少なくともこの人たちには伝わってほしい。そう思うようになった。本が出ると、何かが変わり、人が興味を持ってくれるようになった。「形になる」ということは、自分が思っているより大事なことなのだろう。それに、わかってほしい人ができたことが何より大きかったのだと思う。
皆さんも、これから自分のことを説明するのに困難を感じるかもしれない。自分が面白いと思っていることを、社会的にわかりやすいことに例えて誤魔化しているうちに、いつしかそれに同化してしまうかもしれない。生きていく上では、役に立つとか、お金になるという基準も必要でしょう。でも、自分の面白いと思うことだけは大切にして、それに齧り付いて離さないように。それを面白いと思ってくれる人は、必ずいます。
大田 暁雄
OTA AKIO
デザインとプログラミング、
ヴィジュアル・レプリゼンテーション