言葉にならない思いも、アニメーションなら伝えられる|アニメーションディレクター・見里朝希

INTERVIEW クリエイティブと学びのつながり Vol. 2

言葉にならない思いも、アニメーションなら伝えられる

見里朝希 (アニメーションディレクター)


モルモットの車が大活躍する人気アニメ「PUI PUI モルカー」。この多くの人に愛される作品を手がけたのが、卒業生の見里朝希さんです。学生時代の早い段階から、アニメーション一筋だったという見里さん。やりたいことを実現し、アニメーションディレクターとして大成するまで、どのように考え、行動し、視デの学びを活かしていったのでしょうか?その姿勢のあり方を探りましょう。

見里朝希 Tomoki Misato

アニメーションディレクター。1992年東京都生まれ。2016年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。2018年東京藝術大学大学院アニメーション専攻修了。フリーランスを経て2021年WIT STUDIOディレクターに就任。Young Guns 18を受賞したほか、国内外の映画祭で多数の賞を受賞している。

やりたいことにつなげて糧にする。学生時代の学び方

——はじめに、視デに入ろうと思ったきっかけと、視デ生になってから感じたことを教えてください。

見里朝希(以下、見里) 受験生の時、今津良樹さんの『アトミックワールド』という、サラリーマンがどんどんメタモルフォーゼしていく作品を観て、それに感銘を受けて視デに入りたいと思いました。入学前は、多摩グラのようにアニメーションの授業をすぐに受けられるものだと思っていたのですが、いざ大学生活が始まってみると、目隠しをして大学内を歩く「トラスト・ウォーク」や線を何本も描く「100枚ドローイング」(線との対話)など、知覚の訓練をするような専門分野以前の授業ばかりで。正直言って戸惑いました(笑)。

見里朝希さん

見里 当時は何をやっているかわからなくて、「早くアニメーションの授業を受けたいな」と焦る気持ちの方が強かったです。だからなんとか実践的な学びにつなげようと、自分のやりたい方向性に少しでも重なる課題に集中するようにしていました。そうすることで、なんだかんだ授業も楽しめましたし、目に見えるものだけで相手に伝えるという、ビジュアル・コミュニケーションの根本的な考え方が身についたと思います。

——見里さんは、いつからアニメーターを志していたのですか?

見里 幼いころから海外のアニメーションが好きで、自分でつくってみたいとは思っていたものの、大学1年生の最初の頃はイラストレーターとか他の道も考えていました。志が決まったのは、1年生の冬のこと。有志のグループ展のために、初めてAdobeのAfter Effectsという映像ソフトを使い、自分の癖っ毛をテーマにした『Natural Wave』という2Dアニメ作品を制作したのがきっかけでした。観てくれた人が共感してくれて、「言葉にならない思いも、アニメーションなら他者に伝えることができるんだ」と感動して、そこからアニメーターになろうと決意したんです。

——かなり早い段階から決めていたのですね。その後、どのようなアクションを起こしたのでしょうか?

見里 まずは「仲間をつくろう」と思って、同じ志を持つ人を探すことにしました。実は視デに入ったはいいものの、同級生にアニメーターを目指す人がほとんどいなかったんです。そこで1年生の終わりから、ムサシネという映像サークルに入りました。
 さらに2年生になってからは、思いきって視デの陣内利博先生が関わっている、インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル(ICAF)にボランティアとして参加することに。そこで初めて久野遥子さんや冠木佐和子さん、姫田真武さんなど、他校出身のアニメーターの卒業制作作品を観て、「学生でもこんなに高いクオリティの作品がつくれるのか」と驚きましたね。同時に彼らのアニメーションへの熱意に触れ、「自分もいつかICAFで上映されるアニメーション作品をつくろう」と、強く思うようになりました。
 そして3年生以降は、サークルのメンバーと一緒にアニメーションをつくったり、ICAFのジングル映像を制作したりして、視デ以外での活動も活発にしていきました。

共同制作作品『MUSA★CINE is Monster』2014年

自主制作作品『恋はエレベーター』 2015年

卒業制作を代表作にする。コマ撮りアニメーションが転機に

3年次「映像デザイン」課題作品『あぶない!クルレリーナちゃん』 2014年(第11回ACジャパンCM学生賞 優秀賞受賞)

——コマ撮りアニメーションはいつから撮り始めるようになったのですか?

見里 3年生の後期からです。中島信也先生の「映像デザイン」の授業を選択して、「やっと映像制作の実践に入れるな」と嬉しかったのを覚えています。そこで初めて羊毛フェルトという素材に出会い、「あぶない!クルレリーナちゃん」というコマ撮りの映像作品を制作したんです。1年生の頃から、ストップモーションアニメは絶対つくろうと思っていたので、制作方法を調べながら、実践できる環境を整えました。

「人形づくりもそうですし、今までやってこなかった制作方法だったので、何もかもが新鮮で楽しかったですね」(見里)

——自分の転機となったような経験はありますか?

見里 卒業制作作品の『あたしだけをみて』をつくった時でしょうか。実はこの作品をつくりはじめた時、絵コンテがなかったんですよね。物語ありきの映像作品で絵コンテを描かないというのは、なかなか危険なことですが、当時はそんなことも知らず、なんとなく頭の中で描いていたストーリーをもとに、そのまま制作を進めていたんです(笑)。

『あたしだけをみて』メイキング。
「人形制作からアニメート、編集までは自分1人でやっていましたが、セットなどの美術制作に関しては、学校に張り紙を出してスタッフを募集し、集まった8〜9人くらいで、放課後などの空いた時間を使って制作していました」(見里)

見里 8月から撮影を始めてオープニングまではできていたのですが、夏休み明けに陣内先生から「どんな話のなの?」と聞かれた時、うまく説明ができなくて。そこで絵コンテを描いていなかったことが発覚したんです。もちろん撮影は中断。すぐに絵コンテを描きはじめて、1ヶ月で絵コンテを完成させ、10月に入ってから撮影を再開させることができました。陣内先生には3年生の頃の「モノガタリ考」という授業でもお世話になっていて、物語を設計する上で大切な5W1Hはもちろん、キャラクターの導線や位置関係を意識的に組み立てることについてもご指導いただいて。スケジュールは後ろ倒しになってしまいましたが、そこでこれまでの学びを応用しながら、しっかりストーリーを組み立てられたことで、作品としての完成度を上げることができたと思います。

『あたしだけをみて』セットイメージ。

卒業制作作品『あたしだけをみて』 2015年(ASK? 映画祭 2016年大賞ほか多数受賞)

——『あたしだけをみて』は、その後数々の映画祭の賞を受賞しました。

見里 就職課(キャリアセンター)の方から「受賞歴があった方がいいんじゃないか」というアドバイスをいただいたこともあり、『あたしだけをみて』は世界中の映画祭に片っ端から応募するようにしていました。実際に東京アニメアワードフェスティバル2016の代表にも選ばれましたし、ポルトガルの映画祭ではグランプリを獲ることもできました。

当時制作した人形は、今も大切に持っているそう。

——その後見里さんは、就職ではなく東京藝術大学の大学院へ進学しました。どのような考えで進路を決めたのでしょうか?

見里 最初は就職活動もしていて、あらかじめ東北新社とロボットという映像制作会社だけに絞って就職試験を受けていました。ロボットの野村辰寿さんは多摩グラの教授でもあり、作品を観ていただいた時に「大学院でさらに実践的なことを学んだ方がいい」というアドバイスをくださったんです。結果的に採用が決まらなかったので、潔く就職は諦め、藝大大学院への進学を決定。そこで、プラバンで制作した『Candy.zip』や羊毛フェルトの素材感を活かした『マイリトルゴート』を制作し、監督としてアニメーション制作のノウハウを学んでいきました。

東京藝術大学大学院 1年次作品『Candy.zip』 2017年

東京藝術大学大学院 修了制作作品『マイリトルゴート / My Little Goat』 2018年 (SHORT SHORTS FILM FESTIVAL 2019年優秀賞ほか多数受賞)

大人気『PUI PUI モルカー』が、多くの人に愛される理由

テレビアニメ『PUI PUI モルカー』 2021年[©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ]

——2021年には『PUI PUI モルカー』が発表され、かなりの反響があったと思います。どのような経緯で制作することになったのでしょうか?

見里 モルカーは社会人になってからしばらくして、『マイリトルゴート』を見てくれたシンエイ動画さんから「オリジナルコンテンツをつくらないか」と声をかけていただいたことから制作がスタートしました。「モルモットが車になったら」という構想は以前からあったので、テレビアニメ化されることがとても嬉しかったです。制作時も僕の考えやこだわりを尊重してくれて、やりたいようにやらせてもらうことができました。

テレビアニメ『PUI PUI モルカー』 2021年[©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ]

——どのようなところにこだわりましたか?

見里 まずはストーリーですね。子ども向けのアニメなので、かわいさや楽しさを伝えることも大切ですが、子ども騙しのストーリーは嫌で。大人が見ても感動できるようにメッセージ性のある作品づくりを心がけていました。もちろん、実際に子どもが見ても、全ては伝わらないと思います。それでも大きくなって改めて観た時に、新しい発見をしてもらえたら嬉しい。そんな願いを2分40秒という短い時間に込めています。

テレビアニメ『PUI PUI モルカー』 2021年[©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ]
「人形を羊毛フェルトでつくっているからこそ、自然と柔らかい表情やユニークな動きを表現できるんです」(見里)

——アニメーションをつくるために、どのくらいの労力がかかるのですか?

見里 当時はそこまで予算がなかったので、雇えるスタッフはほんの数名。企画やキャラクターデザイン、コンセプトアート、絵コンテ制作のほか、アニメートや編集まで、制作のほとんどを自分で手がけていました。コマ撮りの技法を使ったアニメなので、人形やセットを少しずつ動かして撮影する必要があり、1日を費やしても動画にすれば4秒程度。モルカー特有のコミカルな動きを出すため、1話をつくるのに1ヶ月は費やしていましたね。手づくり要素が満載のストップモーションアニメは、温かみがあり、好感を覚えやすいもの。CGアニメーションとは違った強みを活かせたと思います。

テレビアニメ『PUI PUI モルカー』 2021年[©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ]

クリエイティブと学びのつながり

——仕事をしていく中で、大学時代の学びが活かされた経験はありますか?

見里 なんだかんだ、センスや技術を磨くことは後からでもできることなので、それ以前の知覚の考え方を磨くというのは、視デじゃなければできなかったことだと思います。そこで身につけたことが、感覚的に物語を伝えることにも生かされています。ストップモーションアニメは、つくり手の遊び心を反映させることができるものです。桜の花びらをポップコーンで表現したり、爆発は綿で、海面はビーズでと、身の回りにあるものに置きかえて表現しても不思議と筋が通るんです。その気軽さや手づくりの温かみに対する好感というのは、どれだけ技術が進歩してCGが主力となったとしても、変わらないことなんじゃないかなと思います。

テレビアニメ『PUI PUI モルカー』 2021年[©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ]
第6話では、車の煙を、オレンジ色の綿で表現。

『あたしだけをみて』では、海面をビーズで表現。

——現在はアニメーション制作会社のウィットスタジオに所属しているそうですね。

見里 はい。アニメーションディレクター(監督)の仕事をしています。『進撃の巨人』など、作画アニメーションをつくっている会社なのですが、新たにストップモーション部門を立ち上げることになり、今はその中心的な立場として準備をしている最中です。次の作品も、ぜひ楽しみにしていてくださいね。

——これからは、どのようなことに挑戦してみたいですか?

見里 今後もコマ撮りアニメーションをつくっていきたいという思いはあります。でも、ずっと同じことをしていてはつまらない。モチベーションを下げないためにも、表現への挑戦は常にし続けたいと思います。素材を変えてみたり、VRとか新しいカメラワークを考えてみたり。作品のジャンルを全く違うものにしてみたいという思いもあります。新しい挑戦を少しずつ取り入れながら、進化していきたいですね。そしていずれは長編作品に挑戦したいです。アニメーション制作は細かい作業が多いので、苦しくなることもありますが、数秒でも映像になった時、キャラクターに命が吹き込まれた気がして、とても嬉しくなるんです。これまでの努力が反映されたと感じられることが、僕の機動力になっています。

——近年は視デにもアニメーション制作を志す学生が増えています。最後に学生に向けてアドバイスをお願いします。

見里 特に卒制は代表作になるので、ぜひ真剣につくってください。そして完成した作品は、必ずコンテストや映画祭に応募した方がいいと思います。そこで大切なのは、受賞するということよりも、プロから意見をもらうことです。学生時代は恥ずかしがって作品を見せない人も多いけれど、絶対に見せた方がいい。自分のレベルを上げられるし、チャンスを掴むこともできますから。最近はSNSが発達して、いろいろな人が作品を観るプラットフォームがたくさんあり、そこで注目される人もいますが、必ずしもみんなが真摯に観てくれるわけではありません。映画祭は、必ずプロの人に観てもらえるうえに、アドバイスまでもらえるので、大きく飛躍できるはずです。

見里 あとはシンプルに、悩まないこと。教授陣のコメントを聞き入れながらも、自分が面白いと思ったことは最後まで貫いた方がいいと思います。納得できるアドバイスは取り入れる。黙々とつくり続けて、迷わない。力の入れ方、抜き方を自分で考えてやっていくことが大切です。

取材・撮影・執筆:宇治田エリ