補足1「視覚言語と視覚メディア」

【人間の感覚】
生物はそれぞれ固有の感覚器官を備えており、情報を得る知覚によって状況を判断し、そのうえで行動し生成させる極めて精緻に創られた構造を持っている。こうしたこと自体、自然の不可思議さであると同時に、万物の原理にあらためて私たちは驚かされる。
人間もまたその原理のなかに組み入れられている。人間は、五感といわれる目、耳、鼻、舌、皮膚の五つの感覚器官によって状況を把握し外界と交信をし、人間の知覚認識能力は身体の発達の過程の上で形成される。なかでも目と脳の瞬時の反応による知覚、すなわち、外化された脳神経としての視覚によって情報を捉え処理する能力を著しく発達させてきた。人間の視覚は、感覚器官の中で 80%もの知覚能力を持つ中心的器官である。それは音楽や音声言語を扱う聴覚と並んで、人間の高い精神的な価値を形成してきた。
【視覚言語と視覚メディア】
このような視覚による活動の拡張が生み出したもの、それが文字、記号、図像などのさまざまな視覚言語(ヴィジュアル・ランゲージ)であり、絵画、印刷物、映像、マルチメディアなどの多種多様な視覚メディアである。こうして人間が手にした豊かな視覚言語と視覚メディアは、コミュニケーションの幅を拡げるとともに、宗教や民族、時代などの精神、世界観を映し出すことによって文明を支え、文化の足跡を今日に伝えてきた。
情報が社会や産業や生活に決定的な影響をもたらしている今日、私たちが再認識する必要があるのは、それらの情報の多くが視覚メディアを媒介としているということである。あらゆる視覚情報は、言うまでもなく固有の形や色や運動によって伝達される。まさに、その形や色や運動を視覚メディアに媒介された情報として扱う学問分野、創造領域こそがヴィジュアル・コミュニケーション・デザインにほかならない。かつてない多量な情報の交信と地球規模の通信がおこなわれている現代は、物質やエネルギーに代わって社会生活を営む中心が情報になってきている。それ故に、その情報を整理し有効に伝達させる視覚の役割はますます重要度を増してきている。
視覚情報を扱うヴィジュアル・コミュニケーション・デザインの活動は、商品の宣伝や販促はもちろんのこと、交通システムや社会環境に関わる公共的なコミュニケーション、幼児の絵本や百科事典を含む図鑑や書籍、教育や博物館など社会学習や情報サービス等、情報活動全般にまたがる広い範囲にわたっている。もとよりヴィジュアル・コミュニケーション・デザインがその任にあたる必要があると同時に、これからの新しい社会の仕組みそのものの形成に深く関わっている。