(注:補足箇所をクリックすると補足文にジャンプします)
視覚言語と視覚メディア(補足1)によるヴィジュアル・コミュニケーション・デザインの活動は、新しい表現形態とコミュニケーション形式を生み出し、これからの新しい社会の形成に深く関わっています。
1980年以降のデジタルメディアの出現(補足2)によって、社会環境も急速にその枠組みを変えつつあります。その影響は、コミュニケーション・デザインばかりでなく、他のデザインエリアをも巻き込み予知不可能な状況を、そして新しいデザインのビジョンを生み出しています。
いま、求められるのは、社会的な視点から情報を捉え直し、再構築することができる知性と教養を備え、同時に人々の感性に共鳴する新たな視覚的表現の創造者(補足3)としての高度な技術と美意識を持った能力です。
新しいカリキュラムでは、平面を中心にした[ライティングスペース・デザイン]、 時間・運動・インターフェイスに関わる[情報デザイン]、空間、立体的次元・環境を中心にした[環境デザイン]の三つの支柱を立てています。この三つの基本領域を結び合わせた束は、歴史と伝統に支えられた潜在性を秘めた貴重な媒体と、予知可能な未来の新しい領域との共通な基盤と交配の場(補足4)になることを期待して創られました。
視覚伝達デザイン学科における表現者の自己形成(補足5)は、個人の主体性からグループへの参加、そして、集団における役割から社会と文化の共有に至る過程で、デザインと個性との関係性を創り上げていくことが望まれています。
<補足文>
補足1「視覚言語と視覚メディア」 ↑本文に戻る
【人間の感覚】
生物はそれぞれ固有の感覚器官を備えており、情報を得る知覚によって状況を判断し、そのうえで行動し生成させる極めて精緻に創られた構造を持っている。こうしたこと自体、自然の不可思議さであると同時に、万物の原理にあらためて私たちは驚かされる。
人間もまたその原理のなかに組み入れられている。人間は、五感といわれる目、耳、鼻、舌、皮膚の五つの感覚器官によって状況を把握し外界と交信をし、人間の知覚認識能力は身体の発達の過程の上で形成される。なかでも目と脳の瞬時の反応による知覚、すなわち、外化された脳神経としての視覚によって情報を捉え処理する能力を著しく発達させてきた。人間の視覚は、感覚器官の中で 80%もの知覚能力を持つ中心的器官である。それは音楽や音声言語を扱う聴覚と並んで、人間の高い精神的な価値を形成してきた。
【視覚言語と視覚メディア】
このような視覚による活動の拡張が生み出したもの、それが文字、記号、図像などのさまざまな視覚言語(ヴィジュアル・ランゲージ)であり、絵画、印刷物、映像、マルチメディアなどの多種多様な視覚メディアである。こうして人間が手にした豊かな視覚言語と視覚メディアは、コミュニケーションの幅を拡げるとともに、宗教や民族、時代などの精神、世界観を映し出すことによって文明を支え、文化の足跡を今日に伝えてきた。
情報が社会や産業や生活に決定的な影響をもたらしている今日、私たちが再認識する必要があるのは、それらの情報の多くが視覚メディアを媒介としているということである。あらゆる視覚情報は、言うまでもなく固有の形や色や運動によって伝達される。まさに、その形や色や運動を視覚メディアに媒介された情報として扱う学問分野、創造領域こそがヴィジュアル・コミュニケーション・デザインにほかならない。かつてない多量な情報の交信と地球規模の通信がおこなわれている現代は、物質やエネルギーに代わって社会生活を営む中心が情報になってきている。それ故に、その情報を整理し有効に伝達させる視覚の役割はますます重要度を増してきている。
視覚情報を扱うヴィジュアル・コミュニケーション・デザインの活動は、商品の宣伝や販促はもちろんのこと、交通システムや社会環境に関わる公共的なコミュニケーション、幼児の絵本や百科事典を含む図鑑や書籍、教育や博物館など社会学習や情報サービス等、情報活動全般にまたがる広い範囲にわたっている。もとよりヴィジュアル・コミュニケーション・デザインがその任にあたる必要があると同時に、これからの新しい社会の仕組みそのものの形成に深く関わっている。
補足2「デジタルメディアの出現」 ↑本文に戻る
【コンピュータの登場】
ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインのエリアは、多くのメディアの拡大と交叉と共にその表現形態は多彩を極めている。デザインの諸領域はもとよりさまざまな芸術ジャンルの境界は、今日ではかなりお互いに曖昧なものになっている。その相互の影響は、かつてない新しい表現形態とコミュニケーション方式を生み出そうとしている。
1980年以降のデジタルメディアの出現によって、社会環境も急速にその枠組みを変えつつある。その影響はコミュニケーション・デザインばかりでなく、他のデザインエリアをも巻き込み予知不可能な状況を、そして新しいデザインのビジョンを生み出している。コンピユータが、その演算能力を視覚的な情報処理によって伝達機能に影響し、感性やイメージの生産に関わる分野に急速に普及したことは象徴的である。
21世紀に目を向けると、情報通信活動は拡大と統合化とネットワーク化の一途をたどり、情報空間は日々変革されている。現代のヴィジュアル・コミュニケーション・デザインを考える場合、さまざまな情報言語の統合化、あるいはインタフェーイス・デザイン、インタラクティブ・デザイン、ネットワーク・デザインといった全く新しいデザインの領域までが、その射程に入ることを認識する必要がある。
補足3「視覚的表現の創造者」 ↑本文に戻る
【視覚表現の創造へ】
視覚伝達デザイン学科では、現代社会、そして 21世紀に対応する創造活動を通して、ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインの分野にたずさわる人材を育成している。
このような時代に求められるのは、社会的な視点から情報の意味を捉え直し、再構築することができる知性と教養を備え、同時に、人々の感性に共鳴する新たな視覚表現の創造者としての高度な技術と美意識を持った能力である。そのような、真の意味において新しい時代のヴィジュアル・コミュニケーション・デザインを担いうる人材の育成こそが本学科の目的である。
デザインをおこなうには、われわれの五感の全てを使い、特に視覚の面からメッセージの構築とコミュニケーションを考え、イメージを喚起する技術と教養を身につける必要がある。その技術と創造は、人々の感性に訴える詩的表現を伴っており、美意識に関わるものである。ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインの学習範囲は、美学、心理学、人間工学、サイバネティックス、環境生態学のような基礎的研究やコミュニケーション理論等の社会学など学際的分野が含まれている。そして、その主要な専門領域は印刷、写真、映像、マルチメディア、インターネット、視覚環境などの実際の技術と理論である。
このような変革の時代、ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインの領域で活動しようとすれば、狭義のグラフィックテザインにおける技術や表現だけでなく、多様なメディアに対する知識、それを使いこなす技術や感性、新しいイメージを生み出す創造力が要求される。
視覚伝達デザイン学科では、こうしたポストモダン・デザインの環境変化に対応するために、学科改革のための共同研究会の設置、1980年以後に世界のデザイン領域に起こっている変革の調査、国内国外のデザイン教育機関のデータベース作成、アメリカの12 箇所におよぶデザイン系大学とデザイン研究所の視察などの同時並行して、ここ数年にわたって教育改革を推し進めてきた。
さらに今後の多様なデザインの変革を予知し、革新的なメディアのなかで多彩な個性を開花させる試みがおこなわれているが、1992年から4年間にわたるカリキュラム改革の取組の過程は、現時点で我々の認識の指針と実践の答えを出すことを求められている。
「変革をもたらすもの、そして変化しない基盤とは何か。デザインの専門領域とは、学際領域の境を超えて存在するものは何か」等であった。
補足4「共通な基盤と交配の場」 ↑本文に戻る
【身体と環境と情報】
現在の多様なコミュニケーション・デザイン・メディアのそれぞれが根底に持っている基礎次元(平面、立体、空間、時間、運動、インタフェース)でくくって拡張した座標系を描いてみる。そして、その基礎的視座から 21世紀におけるデザインの動的なベクトル(身体、情報、環境)を捉え直すことができないものだろうか。
身体と情報と環境の密接な相互依存関係、すなわち、多様な文化の革新的ベクトルを創るためには、平面、立体、空間、時間、運動、インタフェースを機能させるデザインの構想力と美学が必要である。我々は、次のような三つの基本的領域を中心にした創作活動を展開することによって、そのようなデザインの新しい地平を追求しようとしている。
また繰り返し述べなければならないが、表現活動に関わる場合、個人の存在を基本にして、身体性と情報空間と環境空間の関係を再構築すること、新たな座標系の知覚認識を統合化する修練が必要であることは言うまでもない。
補足5「表現者の自己形成」 ↑本文に戻る
【自立する個人から社会へ】
一方、デザインを通して共通の表現と価値の創造に関わる者は、国際社会のなかで自立した表現者であることを求められている。視覚伝達デザイン学科における表現者の自己形成は、個人の主体性からグループへの参加、そして、集団における役割から社会と文化の共有に至る過程で、デザインと個性の関係を創りあげていくことが望まれている。デザインを学ぶ者一人ひとりが、ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインに対していかなるヴィジョンを持つことができるようになるかが、表現者として自立する最大のポイントである。
1年次では、個人を基盤にしたアイデンティティの確認から始め、自己の内面や外面的な感性の開発が試みられる。
2年次では、個人とコミュニケーション環境の接点と発展をグループ作業に求める。
3年次では、専門的なテーマを巡る共同活動を通して集団と個人、共同と個性の帰属と役割を実際に理解する。同時に学外のデザインの動向に関心を持ち、自発的な制作と発表を拡げる。
4年次では、環境的、社会的、実用的視野に立って表現者としての個性と美的感性と批判精神を模索する。
大学院では、デザインのヴィジョンを実現するための創作と研究を端緒に、学際的な能力、実験的理論的な方法論の獲得を自己研鑚する。教育活動は将来の人間生活を予想し、来るべき社会を担う知性と感性と能力をもった若人群を育成することであり、現時点でほんの少しでも停止し停滞することのない創造活動である。我々が教育に取り組むとき、人間の知性と感性を信頼し、根底に持つべき思想はその時代の先端を行くものでなければならない。
我々が世代を超えて共有したいものは、パワフルに通用する国際言語としてのヴィジュアル・ランゲージ(視覚言語)に対する深い理解と洞察である。そして、さらにヴィジュアル・コミニュケーション・デザインに関わる者は一国家、一民族を遥かに越えたグローバルカルチャーを意識した表現者であることを確信している。